エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「はじめまして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません! 大和さんとご結婚させていただきました、叶未です」
父は俺とよく似た垂れ目を細め、うんうんと頷く。
「かわいいお嬢さんじゃないか大和。婚約指輪はちゃんと贈ったんだろうな? 結婚指輪の準備は?」
「あー、いや、それは」
「まだなのか? ジュエリー久宝の社長ともあろう男が、自分の大切な人に贈るジュエリーを後回しにしているとはけしからん。叶未さんに逃げられてしまうぞ。ウサギだけに、ぴょんぴょーんってな。わははは」
父のしょうもない冗談に愛想笑いを浮かべつつも、額には青筋が立ちそうだった。
叶未に贈る指輪のことはちゃんと考えている。しかし、サプライズにしたいから叶未にはあえて何も話さずにいるのだ。デリカシーのない父に台無しにされてたまるか。
「ところでふたりとも、こんなところで油を売ってないで会場に戻ったらどうだ。母さんのウエディングドレス姿、褒めてもらえるんじゃないか? ……お世辞で」
ボソッと付け足した嫌みは聞こえていないのか、それとも都合の悪いことは聞こえない耳なのか、母はパッと表情を明るくして父を見上げる。