エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

「そうね、それがいいわ。私、お腹もすいたし」
「ああ、そうだな。じゃあ叶未さん、また今度ゆっくり」
「はいっ。ぜひマンションにもいらしてください」

 騒がしい両親を見送ると、どっと疲労が押し寄せた。

 俺たちも戻らなければと思うが、あの人たちもいるのかと思うと気が進まない。

「やっぱり、ここでウサギとじゃれ合ってたい……」
「ダ、ダメですよ! 大和さんがいないと、みんながっかりしますから。ねっ?」

 叶未に諭されると、これ以上はワガママを言えない。彼女はいつも、俺の社長としての立場を考慮し、それに相応しい態度や振る舞いをこうしてさりげなく促す。

 社長と秘書という上下関係とは逆に、意外にも手綱を握っているのは叶未の方なのだ。

 仕方なく会場に戻ると、叶未はさりげなく俺から離れていった。俺たちの結婚はまだ一部の社員しか知らないので、無用な反感を買わないためだという。

 どんな時でも周囲の人の気持ちを考えられる、その優しさは叶未の長所だが、人知れず色々な我慢や痛みを胸に溜め込んでいるのではないかと、少し心配になった。

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