エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「まったく。観月さんは大和を甘やかしすぎですよ。なにか困ったらすぐ伝えてください。私から大和に厳しく説教しますから」
紫倉さんは社長秘書だった頃も、よく社長を叱っていたそう。
本人しか読めない殴り書きのメモを、「パソコンで清書しておいて」と渡され、あまりに腹が立った紫倉さんが社長の目の前でメモをゴミ箱に放り込んだ、なんてエピソードもある。
紫倉さんとともに会議室を出ながら、私はクスクス笑う。
「紫倉さん、お母さんみたいですね」
彼は中指で眼鏡のブリッジを押し上げながらやれやれといった感じで苦笑し、廊下の角で別れる時に言った。
「あんなに手のかかる子どもを産んだ覚えはありませんよ。では」
「はい。議事録の方、よろしくお願いします」
紫倉さんは、今日の会議に議事録の担当で参加する。パソコンでの速記技能に優れている彼は、録音と変わらないほど正確な会議の記録を、その場で作成できるのだ。
「そろそろ、社長も準備できたかな」
腕時計を確認してひとりごち、私は社長室へと急いだ。