エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
それでもすぐには大和さんに別れを切り出せなかった。
片想いをひっそり自分の中で終わらせるのと、自分を想ってくれる相手を突き放すのとでは、必要な勇気と精神力に天と地ほどの違いがあったのだ。
なにかきっかけが必要だと思った私は、自分に条件を課した。
十一月の下旬に審査結果の出るコンペで、紅蘭さんのデザインがもし採用になったとしたら、迷わず身を引こうと。
私も彼女のデザインは見させてもらったが、チェーンはホワイトゴールドの小豆型で、長さはスタンダードなプリンセスタイプ。チャームはドリルの先端の形をしていて、その周囲に小粒のパパラチアサファイアとダイヤを散らしたものだった。
サファイヤの中でも最高級とされる、やわらかなピンク色のパパラチアサファイアは、とても希少性が高い宝石だ。その特別感がプレシャス・ハグのブランドコンセプトにも合っているので、審査員たちからの評判もよく、最終選考に残った。
そして、最終選考の会議の日。私自身は会議に参加できないので、社長室で心ここにあらずの時間を過ごしていた。
もちろん仕事に手は抜いていないが、常に会議の行方が気になり、何度も時計を確認してしまう。