エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「え……?」
「奥さんにこんな宣言するなんて、おかしいよね。でも、今回本気でコンペに挑んで、審査の結果を待つ間、自分のことを見つめ直して思ったの。私はやっぱり大和が好き。彼が結婚してるからって、この気持ちを飲み込むなんてできないって」
……紅蘭さんらしいな。そう思うのと同時に、自分にはとうていできない潔い決断を下せる彼女が、強烈に羨ましかった。
紅蘭さんにとって、世間体とか周囲の人の気持ちとか、そういうのはどうでもいいのだ。
ただひたすら、自分の気持ちに忠実に行動する。私には、どうしてその勇気がないんだろう。
と、その時、応接室のドアがコンコンとノックされた。「はい」と返事をすると、「入るよ」と大和さんの声がした。
会議が終わったんだ……。一瞬にして手のひらに汗が滲み、鼓動の音が速まった。紅蘭さんの表情にも緊張が走り、ふたりでドアから入ってくる大和さんに注目した。
「プレシャス・ハグのネックレス部門で採用するデザインが決まった」
大和さんは淡々と言いながらこちらに歩み寄り、手に持っているデザイン画らしき書類をパサリとテーブルに置いた。
息を呑み、目を凝らす。