エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
帰宅後、すぐにパソコンを開いた私は離婚届をダウンロードして印刷した。心を無にして自分の欄を埋め、リビングのテーブルに置く。
その上に【今までありがとうございました。不要な家具や服は処分してください。叶未】と記した小さなメモと、耳からはずしたモルガナイトのピアスをのせた。
ジッと見ていると、初めて彼と食事をしてピアスを贈られた時の記憶が蘇る。
愛の本質を教えてくれる石……彼はそう教えてくれたっけ。こんな風にこっそり逃げ出す私が受け取るべきじゃない贈り物だったのに。ごめんなさい、大和さん……。
心の中で彼に語り掛けると、瞳が自然と潤む。私はそれをゴシゴシ手で拭って、自分の部屋に最低限の荷物をまとめにいった。
キャリーバッグを手にマンションを出ると、すぐ姉に連絡した。一緒に住んでいたアパートから年内には引っ越さないと聞いていたので、当面の間泊まらせてもらうためだ。
簡潔に状況を説明すると、姉は驚きつつも快く承諾してくれ、アパートで心配そうに私を出迎えた。
「おねえちゃん……」
部屋を出てから一カ月と少ししか経っていないのに、姉の顔がとても懐かしくて安心して、私は姉に抱きつくとすぐにしゃくり上げた。