エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
翌朝、ボロボロの顔をなんとかメイクで隠して、いつもより早く出勤の準備を整えた。
バッグの中には、退職願が入っている。昨夜、さんざん悩んで導き出した私の答えだ。
離婚は決めたけれど、大和さんのことが好き。その気持ちは偽れない。
だから……私は彼から離れなければいけない。こんな気持ちで一緒に仕事をするなんて無理だ。
たとえ私がいなくなっても、大和さんにはよき理解者の紫倉さんがいる。加えて今後は紅蘭さんというパートナーもできるのだから、私が辞めることで彼にそれほどの不利益はないはずだ。
覚悟を新たにして玄関で靴を履いていると、姉が心配そうに見送りに来た。
「叶未、大丈夫?」
「うん。行ってきます」
玄関を出ると、唇をきゅっとひきしめて、胸もとのラピスラズリに触れる。
大丈夫。大丈夫。呪文のように胸の内で唱え、私は歩き出した。