エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
ぽかんとして彼を見ると、彼はデスクに手をついて、端整な顔をずいっと近づけてきた。
「朝はきみの言い分を信じて心配するのをやめたが、午後になってもきみの表情は冴えない。理由があるなら話してほしい。俺が力になれるかもしれない」
理由って言われても……。あなたに片想いしていることを先輩方に分不相応と笑われ、それに対してあなたの元恋人は美しく才能あふれる女性だと知り落ち込んでいるなんて、言えるはずがない。
「なんでもありません、本当に」
「どうして話してくれないんだ。俺は観月を心から大切なパートナーだと思っているのに、きみは違うのか?」
心から大切なパートナー。彼のその言葉がうれしくて、切ない。だって、パートナーの前には〝ビジネス〟という言葉が隠れているのだ。
彼のそばにいられるなら、秘書のままでいい。そんなのは建前だろうと心で叫ぶ、もうひとりの自分がいる。
だけど私には、その建前を貫き通すほかにどうしたらいいかわからない。