エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
私はきゅっと下唇を噛んだ後、社長を見つめ返してきっぱり告げる。
「もちろん、私も社長が大切です。でも、プライベートな感情まですべてお見せすることはできません。ごめんなさい」
彼の優しさを無下にするようで、頭を下げながら胸がちくちく痛んだ。
頭を上げると、社長はもともと垂れ気味の目尻をさらに下げて困ったように苦笑していた。
「それはそうだよな。プライベート……悪かった、考えが及ばなくて」
「いえ、社長が謝ることでは」
「もう、五時を過ぎたな。やるべきことが済んでいるなら帰っていい」
彼の声音は穏やかなのに、突き放されたような気がして悲しくなった。
先に彼の優しさを拒絶したのは自分のくせに、なんて勝手なんだろう。自己嫌悪の黒い雲が、胸に広がっていく。
「わかりました。社長は?」
「そうだな……。一旦外でコーヒーでも買って来て、少し仕事をするよ」
「それなら私が買ってきます」
「いいって。残業させてまでコーヒー買いに行かせるなんて、航紀に怒られる」