エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「片思いの相手は社長で、仕事は彼の秘書。両方悩むのは必然よね。で、どうしたの?」
手際よく料理に取りかかる姉の脇で、私は酎ハイを片手にキッチンに腰をもたれさせた。
「朝は更衣室で先輩たちが私の悪口言ってるのを聞いて、午後は社長の元カノが素敵な人だったって知ってさ。私の片想いはしょせん分不相応だよってやさぐれてるところに社長が優しい言葉を掛けてくれたの。……でも、素直に甘えるなんてできないし。なんの罪もない彼に、冷たい態度を取っちゃった」
「なるほど。で、嫌われたかもって?」
「嫌われたまではいかなくても……多少、信頼を失っちゃったかなって」
話していると、鼻先を砂糖と醤油の匂いがかすめる。姉がフライパンで、牛丼用の煮汁を温め始めたのだ。
「……話したら急にお腹空いてきた」
「ならよかった。私も大した恋愛経験はないからアドバイスはできないけど、話ならいつでも聞くよ。叶未はHSPの傾向もあるし、ひとりで抱え込むと心に過度な負担がかかっちゃうから、吐き出せるときに吐き出してね」