エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「朝から気の滅入る話はやめてくれないか?」
「そう言ったって、今日までに先方に返事をする約束なのよ。いいじゃない、一度くらい会ってみれば」
「断る。角が立たないよう、母さんからうまく言っておいてくれ」
社長に冷たくあしらわれ、お母様がふくれっ面をする。彼女は五十代とは思えない美貌の持ち主なので、その子どもっぽい仕草さえかわいらしく見えた。
ともあれ、ふたりはいったいなんの話をしているのだろう。
「どうしてそんなに頑ななのよ……あ、ねえあなた。観月さんだったかしら?」
「はい。ご無沙汰しています、お母様」
不意にお母様の瞳がこちらに向いたので、ますます緊張しながら頭を下げた。
顔を上げると、つかつか歩み寄ってきたお母様が、私の腕を掴んで軽く揺らす。
「あなたからも大和に言ってくれない? もういい年なんだから、結婚について真面目に考えてお見合いをしろって」
「お見合い……ですか?」
「ええ。この子ってば、大学時代に恋人がいたきり、まったく恋愛に無頓着なの。だから、せめてお見合いでもいいから相手を見つけなさいと言ってるのに、いつもこの調子なのよ」