エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 朗らかに笑いながら、ふたりの先輩は更衣室を出て行く。ずっと気配を殺していた私は、思わず大きく息をついた。

 そして、首元に輝く瑠璃色のラピスラズリのネックレスに触れ、誰にともなく呟く。

「そんな分不相応なこと、願うわけないじゃない」

 そう、私の片想いの相手は、ジュエリー界のプリンスこと、『ジュエリー久宝(くぼう)』の若き社長、久宝大和(やまと)なのだ。

 先代の社長である彼の父が三十年前に設立したジュエリー久宝は、宝石に特化した専門商社。自社で仕入れから企画・製造・デザインまで手がけたジュエリーを、直営店や百貨店などの小売店などで販売している。

 元々、自らが目利きした質のいい宝石を買い付けることにロマンを感じていた先代の社長は、会社の経営が安定し、株式が上場した数年後に社長を退任。現在は海外の宝石産地をあちこち飛び回っている。

 彼に代わって専務から社長に就任した息子の大和さんは、父親から引き継いだ経営手腕、宝石の目利きに優れているほか、もともとデザイナー志望だった経験を活かして開発にも積極的に参加している。

 加えて八頭身のモデル体型に甘いマスクという容姿のせいもあって、社内外に多くのファンを持つ、まさにプリンスなのだ。

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