エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 紫倉さんに心配をかけるわけにはいかないと両足に体重を乗せてまっすぐ立った瞬間、捻った方の足首に鋭い痛みが走り、私は顔を歪めた。

「やせ我慢はいけません。医務室に行きましょう」
「えっ?」
「支えが必要であれば私に掴まって下さい。なんなら、背中におぶって差し上げます」
「い、いえっ。自分の足で行きます!」

 ブンブン首を横に振って遠慮すると、紫倉さんは眼鏡の奥の目を細めてクスッと笑った。

「冗談です。でも、医務室には同行しますよ。二階ですから、とりあえずエレベーターに乗りましょう」

 か、からかわれた? 紫倉さんって意外と意地悪なところがあるんだな。

 社長に対して軽口を叩くのはいつものことだけれど、女性に対してはいつでも紳士的なんだと思っていた。

 半ば強引に紫倉さんに連れて行かれた医務室。そこにはすでに出勤していた専属産業医の郷田先生がいた。

 郷田先生は四十代半ばの男性医師で、肩まで伸ばした長髪を一つに結び、顎には無精ひげが散っている、少々清潔感のない容姿。

 けれどよく見ると美形で、社長のような王子系とも、紫倉さんのようなクール系とも違う、ミステリアスな魅力があるイケメンなので、隠れたファンも多い。

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