エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 そんな郷田先生に促され、私はカーテンの引かれたスペースでストッキングを脱ぎ、ベッドに足を伸ばして座った。準備ができたところで郷田先生に声を掛け、ひねった足首を見てもらう。

「腫れは大したことないし、歩けないわけでもない。湿布だけでもだいぶ痛みは引くだろう。だが、産業医は基本的に怪我や病気の診断・治療はやっちゃいけないことになってるんだ。だから、痛みが続くようならすぐ病院を受診した方がいい。俺の言うことは、ちょっと医療に詳しいオッサンの戯言くらいに思ってくれ」
「とんでもない。ありがとうございました」

 郷田先生にお礼を言って、紫倉さんとともに医務室を出る。お医者様の口から軽傷だと言ってもらったおかげか、さっきより少し痛みがましになった気がした。

「すみません紫倉さん。時間、過ぎちゃいましたね」

 廊下を歩きながら腕時計を見ると、始業時刻の八時を数分過ぎていた。

< 44 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop