エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「今朝は急ぎの仕事はありませんでしたので、構いませんよ。それに、かわいい部下の怪我は一大事です。大したことがなくて本当によかった」
そう言って微笑んだ紫倉さんの眼差しがいつになく穏やかで、優しい上司だなぁ、とほんわかした気持ちになる。と、ちょうどその時、前方に見えていたエレベーターの扉が開き、ひとりの男性が勢いよく飛び出してきた。
「観月!」
「社長?」
血相を変えて駆け寄ってきたのは、久宝社長だった。いつも始業二十分前には出勤している私がなかなか来ないから、怒っているのかもしれない。
「ご連絡もせず遅れて申し訳ありません。実は――」
「きみが航紀と一緒に医務室に入っていくのを見た社員がいるんだ。どこを怪我した? 痛みの程度は? いったいなにがあった?」
「ええと、あの」
「……大和。そう質問攻めにされたら、彼女だって答えたくても答えられないですよ」
呆れた様子の紫倉さんにたしなめられ、社長は少々ばつが悪そうに「すまない」と言った。
しかし次の瞬間いきなり身を屈め、私の背中と太股の裏に手を回したかと思うと、軽々と抱き上げる。