エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「きゃっ……!」
突然浮いた体が不安定で、咄嗟に社長の逞しい首にしがみつく。
まさかこれ、お姫様抱っこ? そう気付いた瞬間、頬が一気に熱を持った。
どうしたって常に彼の体温を感じるし、ほんの少し鼻で呼吸をするだけで、社長の纏う甘さ控えめで上品なフレグランスの香りを濃く感じる。恥ずかしくて、どんな顔をしたらいいのかわからない。
「それなら社長室でゆっくり事情を聞く。どこを痛めているのか知らないが、この体勢は大丈夫か?」
「は、はい。痛いのは足なので……。でも私、自力で歩けます」
「却下だ。無理をして悪化したらどうする。それと悪いが航紀、俺は手がふさがっているからエレベーターのボタンを頼む」
「え、ええ」
社長の思いがけない行動には紫倉さんも呆気に取られていたけれど、我に返ってエレベーターの前に移動し、ボタンを押す。
そして到着を待つ間、三人ともなぜか無言になってしまい、微妙に気まずい空気が流れた。