エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「ここ?」
「そうですけど……自分でやりますから」
「怪我をしている時くらい甘えてくれ。俺が傷つく」
社長室の応接ソファに座らされた私は、あろうことか社長に足首の手当てをしてもらうことになってしまった。
救急箱をテーブルに置き、私の前に惜しげもなく跪いた彼が、パンプスを脱がせた私の足を掴んで患部をそっと撫でる。もともと湿布を張るつもりだったので、ストッキングは脱いだままだ。
私の足、匂わないだろうか。爪の手入れは昨夜したばかりでよかったけれど……。
怪我よりもそんなことばかりが気になり、素足に彼の手が触れているだけで動悸がした。
「しかし、観月が転んで怪我をするなんて珍しい。なにか考え事でも?」
湿布の袋を開けながら社長が訪ねてきて、私はどきりとした。確かに考え事はしていたけれど、あなたに結婚の返事をすることで頭がいっぱいで……なんて、正直に伝えられるわけがない。
「いえ。ただ私がドジで、通勤中にパンプスのヒールを小さな段差に引っ掻けてしまって」
「パンプス? 観月って、朝と帰りはスニーカーを履いていなかったか?」
社長は不思議そうに言いながら、台紙から湿布をはがして私の足首にそっと貼り付ける。
ひんやりした感触にちょっとだけビクッと体が跳ね、それからじわじわと湿布の成分が皮膚の内側に浸透していく気がした。