エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「よくご存じですね。最近変えたんです。社長秘書ならいつでも完璧なファッションでいるべきだと……ある本で読みまして」
真実は言い出しにくくて、陰で先輩にダメ出しをされていたことは伏せてそう言った。
「くだらないな。誰のなんという本だ、それ」
「えっ?」
手当てを終えた社長が吐き捨てるように言って立ち上がったので、私はぽかんとして彼を見上げる。
「社会人として最低限の清潔感やTPOをわきまえた服装をすべきなのは当然だが……社長秘書だからって、二十四時間タイトなスーツを身につけピンヒールを履いていたら、体が悲鳴を上げて秘書業務どころじゃないだろう。そんなふうに外側を飾るのに必死になるより、仕事の中身で勝負する秘書を、俺ならそばに置きたい。観月、きみのようにね」
「社長……ありがとう、ございます」
本質を捉えた社長の言葉が、胸にすとんと落ちる。同時に、先輩方にこれ以上嫌われたくないからと、長いものには巻かれろ精神だった自分の浅はかさが情けなくなる。
私は私を変えたい。仕事の面でも、恋愛の面でも。
太股の上で軽く握っていた手にギュッと力を籠め、私は意を決して口を開く。