エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
『その石になにか叶わない願いでも掛けてるのよきっと。プリンスの彼女になりたいとか』
彼と私とが釣り合わないことは、秘書課の先輩方に言われなくとも重々承知している。それでも、あんな風にばかにされるとやっぱり胸は痛くて、私は俯きがちに更衣室を出た。
目の前の廊下は道路に面した部分がガラス張りになっていて、表参道が見下ろせる。
お洒落なカフェやアパレルショップ、海外発の雑貨店などに交じって建っている七階建てのこのビルが、ジュエリー久宝の本社。一階には直営のショップがあり、世代を問わず多くのお客さんがジュエリーを求めにやって来る。
そんな、見るからにキラキラした職場なのだけれど、私の仕事は裏方。
ネックレスで言えばチェーン。指輪で言えば、アームの部分だ。社長を輝かせるために、今日も頑張らないと。
無理やり気持ちを切り替えて、同じフロアにある社長室に向かう。
他の秘書課員は、秘書課の自分のデスクで事務仕事をするけれど、私のデスクだけは社長の希望で、彼の部屋にあるのだ。