エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「社長、あの……! 結婚の件なのですが!」
そう切り出して、傍らに置いたバッグの中の契約書を出そうとした瞬間だった。
「観月、ちょっと待って」
慌てたように近づいてきた社長が、身を屈めて私の唇に人差し指を押し当てた。ドキンと脈打った胸を無意識に押さえ、おずおず彼を見つめる。
「返事は、仕事の後でゆっくり聞かせてほしい。気に入りの店を予約してあるから、食事をしながらゆっくり話をしよう。きみの足に負担がかからないように店まではタクシーを使うし、エスコートも任せてくれればいい」
甘ったるい声で囁くように言われ、心臓がはち切れんばかりに暴れる。
社長と食事。つまり、デートだ。こんなに急に誘われるなんて思っていなかったけれど、断る理由はない。片想いの先に、一歩ずつ進んでいかなくちゃ。
「よ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、社長はもともと垂れ気味の目尻をますます下げて、優しく微笑んでくれた。