エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 その日一日、社長はとても過保護だった。

 デスクワークの合間に私がちょっと立ち上がっただけで、『どこへ行く? 一緒に行こうか』と私を追いかけてくるので、失礼だけれどまるで飼い主に忠実な大型犬のようだった。

 しかし、そうして一日甘やかしてもらったおかげか、仕事を終えた頃には足首の痛みはほとんど消えていた。

 月曜は先週末の処理があるので少し残業し、午後六時頃仕事を終えた。社長と連れ立って会社を出るのは周囲の社員たちの目もあり緊張したけれど、秘書の私が彼と行動を共にする光景は日常茶飯事なので、とくに注目を集めることもなかった。

「だいぶよさそうだな、足」

 路上に待機していたタクシーに乗り込み運転手に行き先を告げた後、社長が私の足元を見ながら言った。

 仕事で社長とタクシーに乗る場合、私は支払いや道案内のため助手席に乗ることが多いけれど、今日は後部座席で隣同士。慣れないシチュエーションのせいか、鼓動の音が常に騒がしい。

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