エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

「おかげさまですっかり痛みは引いたので、湿布も外しました。レストランの店内にツーンとしたあの匂いを漂わせるわけにはいけませんし」
「確かにな。でも、くれぐれも無理はするなよ」
「はい。心得ています」

 会話が途切れると、社長は車窓から表参道の夜景をなにげなく眺める。その横顔があまりにきれいで、私はしばらく目を奪われた。

 タクシーに揺られること十五分弱。無機質なビルが立ち並ぶ通りの先に、緑に囲まれた瀟洒な洋館が現れた。

 タクシーは門から中に入り、秋咲きのバラが咲き乱れる広い庭園を通りすぎると、柔らかい色の照明が灯る建物の入り口に車をつけた。

「さ、着いた」
「わ……素敵」

 タクシーを降り、建物を見上げる。レストランというより、貴族が暮らすお屋敷のような風情だ。車内で社長が教えてくれた情報によると、パリの三ツ星レストランで修行した日本人がシェフを務める、日本有数のグランメゾンだそう。

 会社帰りだからドレスコードは問題ないはずだけれど、本当ならもっと優雅なドレスやワンピースを纏ってくる場所じゃないだろうか。

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