エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「観月、掴まって」
「は、はい」
社長に腕を差し出され、遠慮がちに自分の腕を絡める。こういう時は男性のエスコートに従うのがマナーだとわかっていても、体に触れるということを必要以上に意識して頬が熱くなった。
社長は私を気遣いながらゆっくり店内に入り、フロントで名前を告げる。それからクロークに荷物を預け、個室に案内された。
昼間なら庭園のバラがじっくり鑑賞できるのであろう、大きな窓。天井には煌めくクリスタルのシャンデリア。真っ白なクロスのかかったテーブルに、クラシカルな猫足のチェア。
高級感漂うインテリアに囲まれてますます緊張しながら、社長と向き合って座った。
最初に食前酒の注文を尋ねられたけれど、私は怪我をしているので遠慮した。社長は飲んでも構わないのに、私と同じガス入りのミネラルウォーターをオーダーしていた。
「いいんですか? 美味しそうなお酒、たくさんありましたけど」
「ああ。俺たち、今日は大事な話をする予定だろ? 酔っ払ってる場合じゃない」
「そ、そうでしたね……」
レストランの雰囲気に呑まれて、本来の目的を忘れるところだった。
私たち、ただ食事をしに来たわけじゃない。結婚の話を――。