エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
タクシーで社長に自宅まで送ってもらったあと、姉に簡単な報告をしてから自室でさっそく実家に電話をした。
勤めている会社の社長と結婚することになったので、ふたりに紹介したい。母にそう伝えると、長い沈黙の後で電話口からすすり泣きが聞こえてきた。
「ちょ、ちょっとお母さん、泣いてるの?」
『……ふふっ。ごめんね。芽衣と違って叶未は引っ込み思案で、昔から好きな人に好きって言えるタイプじゃなかったでしょ? だから今はお姉ちゃんと一緒に住んでるけど、そのうち芽衣がお嫁に行ったら叶未が東京でひとりぼっちになるんじゃないかって、お母さんずっと心配してたの』
「お母さん……」
『おめでとう、叶未。幸せになんなさい』
先に上京した姉を追うように私も東京で就職すると決めた時、母は少しも心配する素振りを見せずに明るく送り出してくれた。
きっと頼りない私を心配する気持ちでいっぱいだったのに、それを飲み込んで、私が新しい世界に飛び込むのを、優しく見守ってくれていたのだ。
もしも当時の母に不安がられていたら、私は東京での就職を諦めていたかもしれない。ジュエリー久宝にも入社せず、社長にも出会えなかった。
そう考えると、今さらながらに感謝の気持ちが胸にあふれた。