エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
常に社長と顔を突き合わせて仕事をするという環境に最初は緊張したけれど、慣れてしまえばむしろ便利だった。
至急伝えるべき案件を忘れることもないし、ものぐさな彼が口頭で喋った文面をそのままメールにすることもできる。
顔色や声の調子で彼の体調が悪いのを察知して、スケジュール調整を提案したこともあった。
その時、私が常備している体温計で熱を測ったらかなりの高熱だった彼は、表示された数字に驚き、赤い顔でふにゃっと苦笑した。
『ホントだ。八度七分。観月に言われるまで気づかなかった』
仕事はできるが、そういった自己管理ができないのが彼の欠点なのだ。
彼に片想いをしている身の私としては、そんなところにも母性本能をくすぐられてしまうのだけど……。
「おはよう観月。今日はいい天気だね」
「おはようございます、社長」
朝のうちに済ませておくべきメールの返信をしていると、社長の大和さんが出勤してきた。ゆったりと窓辺に歩いていった彼は、朝の陽ざしに目を細めてやわらかく微笑む。