エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「ささやかだが、結婚のお祝いだな。じゃ、乾杯」
「はい。乾杯」
カチンと互いの瓶を合わせ、今日の疲れをねぎらうように、ビールを一気に喉に流す。
ひと仕事終えた後だと言うのもあるけれど、なにより隣に大和さんがいるから、今までの人生で一番ビールをおいしく感じた瞬間だった。
夕食と入浴を終え、オリーブ色のキャミソールとパンツ、カーディガンがセットのルームウエアに着替えた私は、リビングを覗いた。眠る前に、大和さんにおやすみなさいを言うためだ。
大和さんはソファにいて、一枚のデザイン画を真剣な眼差しで見つめていた。
「それ、コンペの応募作品ですか?」
後ろから声を掛けると、大和さんは硬かった表情をゆるめて私の方を向く。
「ああ」
「私も見ていいですか?」
聞きながら、すでに彼の手にあるデザイン画に注目し始めていると、大和さんはパッと私の目線からデザイン画を外し、傍らに置いていた茶封筒にしまった。
「これはきみが見る必要はない。応募規約に違反しているんだ」
「あ、そうなんですか……」
それなら、どうして大和さんはあんなにじっくり見つめていたんだろう。
違反の内容を尋ねようか迷ったが、大和さんの纏う空気がどことなくピリッとしている気がして、私はそのまま口を噤んだ。