エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「な、なんでもないです! 私、先に食べて出勤しますね」
「今日も? 時間に余裕はあるんだし、一緒に行ったっていいだろう」
大和さんが腕時計を一瞥し、不服そうに口を尖らせる。
「とんでもない! 社員たちに結婚の事実がバレたら大変ですから」
そう、私たちは社内の混乱を避けるため、大和さんに近しい経営陣や紫倉さん以外には、結婚のことを明かしていなかった。
出勤も帰宅も時間をずらしているし、私はまだ観月の姓を名乗っているので、今のところ一般社員には勘付かれてないと思う。
「社内であまり目立ちたくないというきみの気持ちもわかるが……いずれ結婚式を挙げるつもりなんだ。バレるのも時間の問題だろう」
コーヒーをふたつのマグカップに注ぎながら、大和さんが言う。私はトーストと目玉焼き、サラダを手早くダイニングテーブルに並べ、彼よりひと足早く席に着いた。
「その時まではなんとか隠しておきたいということです」
「ま、きみがそう言うなら仕方ない。契約書にも公私混同はしないと書いてしまったしな。はい、叶未の分。砂糖なしのミルク入り」
「ありがとうございます」
香ばしい湯気の立つカップを手にテーブルにやって来た大和さんから、カップを受け取る。
忙しない朝だが、好きな人と一緒に朝食を囲めるささやかな幸せが、心に活力を与えてくれる。
今日も一日頑張ろう。そう思いながら、彼の作ってくれたカフェオレに口をつけた。