エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
大和さんの説明に頷き前に向き直りつつも、少々腑に落ちなかった。
落選者にはこちらから詳しい講評などは伝えない決まりになっている。落選に納得できない、その理由を聞きたいと思う気持ちもわかるが、どの応募者も条件は同じ。
どうして大和さんはその女性だけを特別扱いするのだろう。
「そのデザイナーさんのお名前は?」
「狩野紅蘭。本人いわく、細々フリーランスで活動しているようだ」
私はスマホを開き、検索アプリでその名を調べてみる。しかし、ジュエリーデザイナー狩野紅蘭の情報はヒットせず、首を傾げる。
「まだ駆け出しのデザイナーさんなんでしょうか。情報がありません」
「いや、紅蘭は俺と同じ大学を卒業している同級生で、卒業してすぐに活動を始めているから駆け出しってことはない」
なにげなくそう話した大和さんだけれど、私はある予感を抱き、スマホを握り締めたまま固まった。
大学の同級生でジュエリーデザイナー。名前を呼び捨てにするほど親しくて、コンペの落選理由をわざわざ直接会って説明するほどの相手。もしかして、紅蘭さんと言うのは彼の――。