エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「それで紅蘭。コンペの件だが、きみが納得しようとしまいとあのデザイン画は審査対象から外す。それでいいな?」
「なに言ってんの? ダメだよ。今回が最後のつもりで真剣に描いたんだよ、あれ」
「しかし、今回も誰かに力を借りているんだろ?」
「だから違うって……! どうして信じてくれないの?」
大和さんのぞんざいな口調から、やはりふたりは元恋人同士なのだとほぼ確信した。けれど、現在の関係はそれほど良好ではないようだ。
話の内容はよく見えないが、悔しそうに唇を噛む紅蘭さんを見ているとこちらまで胸がざわめく。
「ねえあなた、叶未ちゃんだっけ? 秘書であり妻でもあるなら、大和の取り扱いに慣れているはずでしょ? 私と一緒に説得して!」
「えっ……?」
そう言われても、私は事情をなにも知らないのですが……。
「紅蘭。自分の不実を棚に上げて、勝手に叶未まで巻き込まないでくれ」
ため息交じりに大和さんが言うと、紅蘭さんはべーっと彼に向かって舌を出した。かと思うと突然立ち上がり、私の手を掴む。