エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 過去に模倣の前科がある彼女のデザインを採用するのは、ジュエリー久宝にとって当然ハイリスク。そう思う一方で、紅蘭さんが大和さんの元彼女だからって、お前はやっかんでいるんじゃないのか?と囁くもうひとりの自分もいる。

 そうだとしたら、ジュエリー久宝の社長秘書失格だ。冷静にならないと。

 紅蘭さんが過去に犯した過ちは絶対に間違っている。だけど、もしも彼女の言う通り、今は反省し心を入れ替えているなら……採用するかどうかは別として、正当な審査を受ける権利は、あるのではないだろうか。

「紅蘭さん、頭を上げてください」

 そっと声を掛けると、紅蘭さんは縋るような目で私を見る。まるで彼女の方が年下だと錯覚しそうになるほど、頼りない視線だ。

「紅蘭さんの望み通りにはならないかもしれませんが、私なりに、社長に進言してみます」
「ホント? ありがとう叶未ちゃん!」

 紅蘭さんは私の両手をギュッと掴み、歓喜の声をあげた。

 知り合ったばかりの私に、過去の過ちをあんな風にさらけ出して、全力で頼ってくる。

 なんて無邪気で正直な人だろうか。大和さんも、紅蘭さんのそんなところを好きになったのかな……。

 ぼんやりそう思うのと同時に、ふと気がついた。

< 79 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop