エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「観月」
「はい」
不意に呼ばれたので顔を上げると、なぜか身を屈めた社長のどアップが迫っていた。
ひゅっと息を呑んで目を丸くすると、社長は穴が開くほどジッと私を見つめて言う。
「顔に元気がない。なにかあった?」
「え?」
「きみとは半年一緒にいるんだ。それくらいわかるさ。言ってごらん? なにがあったか」
社長は姿勢を元に戻し、穏やかに微笑みながらそう促す。
更衣室の一件で、無意識に表情が暗かったのだろうか。にしても、私なんかの話を聞いてくれようとするなんて、優しいな……。
胸がきゅんとして思わずすべてを打ち明けそうになるが、社長に告げ口して、秘書課の先輩方の反感をますます買うのも困る。
この浮かない気持ちは自分の中でひっそり処理して、何事もなかったかのように過ごすのが一番いいだろう。
「ありがとうございます。でも、ご心配いただくようなことはなにもありません」
「ふうん。元気がなさそうだと思ったのは、俺の勘違い?」
再びずいっと顔を近づけてきた社長に、瞳を覗かれる。本心を見透かされそうな眼差しにドキッとしたが、なんとか口角を上げて笑みを作った。