エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
そういえば私は、大和さんに一度も好きだと言われていない。契約書には【愛する】なんて文言があるけれど、あれはあくまで形式的なものだ。
彼は常に優しいし、キスもしてくれる。だけど、真っ赤になって動揺しているのはいつも私だけ。愛するという言葉がしっくりくるほどに、大和さんから激しい感情が伝わってきたことはない。
もともと好き合って結婚したわけではないのだから当然と言えば当然だ。でも反対に、紅蘭さんはきっと彼に愛されていたのだと思うと、そこはかとない虚しさに心をさらわれそうになった。
個室に戻ると、紅蘭さんは、『私がいると話しづらいだろうから』と、ほとんどお弁当を残した状態で帰ってしまった。
彼女が去り室内が静かになったところで、うんざりした様子の大和さんが口を開く。
「で、なんだって? 紅蘭のヤツ」
「……過去に、紅蘭さんが模倣のデザインでコンテストに入賞したことを聞きました。それがきっかけで、お付き合いしていた大和さんを裏切ってしまったことも」
「相変わらずだな。なんでわざわざ叶未を不愉快にさせる話を」