エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「わかったよ。きみのアドバイスを聞いて失敗だったことはない。紅蘭のデザイン画を審査対象に加えよう」
「大和さん……ありがとうございます」
「まったく、きみは俺の元恋人が目の前に現れても、嫉妬のひとつすらしないんだな」
笑いながらではあったけれど、どこか不満そうに大和さんが呟く。今度は私が彼の目を見られず、曖昧に微笑んでお弁当に箸をつけた。
嫉妬なら、している。だけど、そのドロドロした感情をどうしたらいいのかわからなくて、嫉妬という名の不純物は、胸の中で静かに結晶化していくだけ。
本音を飲み込み、黙々と食事をする私を大和さんもそれ以上追及はせず、私たちは気まずい空気の中で、ただお弁当に集中するのだった。
「観月さん?」
私を呼ぶ紫倉さんの声で、ハッと我に返った。ここは、会議室。午後から秘書課のミーティングに参加していたはずだが、終了後につい上の空になっていたらしい。
会議室には、席に座りっぱなしの私とホワイトボードの文字を消していた紫倉さんしかおらず、窓を半分覆っているブラインドの下から差し込む日差しが、部屋をオレンジに染めている。