エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
パソコンから顔を上げた彼女は、話しかけてきた相手が社長である俺だと気づくと、黒くてくりっとした目を大きく見開き息を呑んだ。
ハーフアップにしている黒髪は艶やかでまっすぐ。その素朴な容姿から新入社員かもしれないと予想しつつ、俺は本題に入る。
『驚かせてゴメン。社長室に延長コードが欲しいんだけど』
『あ、延長コードですね。倉庫にあります。少々お待ちください』
彼女はペコっと頭を下げてオフィスの壁にかかった倉庫の鍵を取ると、廊下へ出て行く。俺はその場で待ってもよかったのだろうけれど、なんとなく彼女の後を追った。
倉庫は廊下の突き当たりにあり、広さは十坪ほど。過去の書類や事務用品、緊急時の備品の管理に使われている。中を見たことがなかったので、ついでに見学した。
『綺麗に整理整頓されているな。ここの管理は、総務課が?』
『はい。入社してから三年、ずっと私が担当しています』
彼女は新入社員ではなかったらしい。それにしても、なかなか丁寧な仕事ぶりだ。