エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
『これなら、探し物もひと目で見つかるな』
室内に規則正しく並んだラックに、中身の種類ごとにラベルがつけられた箱が並んでいる。試しに箱の中を覗くと、小物類はさらに箱が細かく仕切られ収納されていた。
そばには持ち出したものの数を記すリストがバインダーに挟んであり、正の字が並んでいる。ここに皆がきちんと記録すれば、棚卸の際も手間が省けて楽だろう。
感心しているうちに、彼女が目的の延長コードを手に俺のもとにやってくる。その時確認した社員証で、彼女の名が観月叶未だと知った。
総務課の地味な仕事を真摯にこなす社員との出会いに、胸がホッと和む。
たまには、秘書にばかりお使いさせるんじゃなくて、自ら社内を歩いてみるものだな。
『お待たせしました。どうぞ』
『ありがとう。じゃ、俺はこれで』
そう言って、くるりと倉庫の出口へ踵を返したその時だ。
『あっ……! 社長、ちょっと待ってください!』
駆け寄ってきた叶未が、突然俺のスーツの袖口を掴み、しげしげと眺める。
『ボタン、取れかけてます』
『え? ああ、本当だ』
どこかで引っ掛けたのだろうか。袖口に四つ並んだボタンの内ひとつを止めている糸がほつれ、ボタンが外れそうになっていた。