俺と妻と傷口
「奥様」
「あ、城野さん。お久しぶりです」
「相変わらず、綺麗だね。変わらないなぁ」
「フフ…ありがとうございます。奏多のことお願いしますね」
「はい、奥様」
「奥様なんて…やめて下さい。なんだかくすぐったいです」

「華恋」
俺は華恋の手を思いきり引いた。
「え?ちょっ…痛っ」
「行こ」
「え?奏多?」
そのまま会場を出た。

「ちょっと奏多!お願い、もっとゆっくり歩いて?足…痛い…」
「あ…ごめん…」
「久しぶりにこんな高いヒール履いたから…痛くて……」
「そこに座ろうか…?」
「うん…」
華恋を椅子に誘導する。
足元にひざまづいて、華恋の小さな足を優しく持ち上げた。
「ごめんね…赤くなってる……」
「やっぱ普段からヒール履かなきゃね…仕事辞めてから、歩きやすい靴ばっかだから」
フフ…と笑って、俺の頭を撫でた華恋。

「もしかしなくても、ヤキモチ?」
「は?」
「フフ…」
「そうだよ…!ヤキモチ妬いた」
「私も……」
「え?」
「先宮さんの香水。
ヤキモチ妬いた…」
「お互い、なんかバカだな(笑)」
「そうだね(笑)」

俺は華恋の横に座り直し、頬を撫でた。
「仲直りのキスしよ?」
「え…?でも…ここ皆さん出て━━━━
ンン……」
「ん…。
リップ苦っ!」
そう言い、俺は自分の口唇を親指で拭った。
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