俺と妻と傷口
そのまま抱き締めあって、眠った。

朝起きると、奏多の綺麗な寝顔があった。
「綺麗…奏多」
奏多の頬に触れ、傷口に触れた。
自然と涙が出てきた。

「不安なの…。
先宮さんに……奏多が取られる気がして………。
私の方が奏多のこと…好きなんだよ…?」
そう言って、寝室を出た。

寝室のドアを後ろ手に閉めて、その場にずり落ちるように、座る。
自分が情けなく思う。
【奏多社長、仕事から帰った時、私の香水の香りがすると思わない?】
こんな言葉一つに、こんなに惑わされるなんて……。

奏多は言ってくれたのに……
“秘書と何もない”って。

涙が止まらなかった。
次から次へと溢れてくる。

言い返してやりたかった。
でも先宮さんの勝ち誇ったようなあの目が、私の喉に何かをつっかえさせ何も言葉が出なかった。

「朝ごはん…作らなきゃ」
なんとか立って、少しよろよろしながら洗面所へ。
「あー目、真っ赤だ……。
冷やさなきゃ……」

目を冷やしながら、食事の用意に取りかかった。


華恋が寝室を出て、すぐ━━━━━━━
パチッと目を覚ました、奏多。
実は華恋が起きる少し前から、起きていた。


「やっぱ……あの女か……」
なんとなくそんな気がしていた。
あの時、ホテルのトイレにいたのは華恋と先宮だ。

今日は天気がよく、晴れやかだ。
でも寝室だけは、大雨の日のようにどんより真っ黒な雰囲気に包まれていた。

*****華恋 side・終*****
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