癒しの君と炎の王 2~炎の王は癒しの娘をさらに溺愛中~
小ホール

「ハイっ!1、2、3、1、2、3…」

激しい手拍子と声が響く中、ソフィアが中央で一人、真剣な面持ちでステップを踏んでいる。

メイドが3人壁際で立っており、そこから少し離れて騎士団のハリスも壁にもたれて腕を組み、ソフィアを眺めていた。そしてハリスの横には、椅子があり、そこにバイオリンを持った男性が、座っていた。

「だいぶ良くなりましたよ、ソフィア様。」

おしゃれな口髭を生やし、髪はきっちりセンター分けで、全身黒で体のラインが分かる服に身を包んだ細身の男性が、ソフィアに声を掛けた。ダンスの先生のマイティだ。

「あ、ありがとう…ございます…。」

ソフィアは自信なさげにマイティに返事をした。

「ステップも覚えたようですので、今度は音楽をかけてハリス様と一緒に踊って…。」

と、言いかけたところで、

「ダメだ。俺が踊る。」

と、扉の前から声が。一同が声の方に視線を向けると、そこにはロエルが立っていた。

ロエル?!どうしてここに?

ソフィアを始め、皆が驚いている中、ロエルはそのままツカツカとソフィアの前に歩み寄り、ソフィアの手を取り、腰に手を回した。いきなりロエルと至近距離になってしまった事で、ソフィアの心拍数は上がり、ロエルに触れられている手と腰が、なんだか熱を帯びていくのを感じた。

ソフィアは突然のことで驚いて固まってしまっていたが、ロエルがソフィアの耳元で、

「大丈夫、おれがリードするから。」

と、囁いた。それから、ロエルは振り返ると、大きな声で、

「おい、ハリス!お前もアンと踊れ!」

と、声を掛けた。ハリスは、嬉しそうに

「承知しました。」

と言うと、壁際で立っていたアンの元へ行き、アンの前で手の平を差し出した。

「踊っていただけますか?」

とハリスが笑顔で言うと、少し戸惑いながらも、

「陛下のご命令ですので。」

と、頬を赤らめながらハリスに手を差し出した。

二人は手を取り、ソフィアとロエルから少し間隔を開けてホールの中央へと移動した。

「準備はよろしいですね?では音楽を。」

と、マイティが言うと、椅子に座っていた男性が、バイオリンで美しいワルツを奏で始めた。
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