王宮女官リリィ外伝〜あの子はだあれ?
あの子はだあれ?
この世界とは異なる世界。
遥か彼方にある宇宙のもうひとつの世界のちいさな物語。
赤く乾いた大地は風が吹くと激しい土埃を舞い上がらせる。
赤道よりやや上にあり、緯度的に砂漠が多い乾燥地帯。そのなかのひとつがアレア共和国。
世界でも貧しい国の一つに数えられていたが、近年世界中の都市化や工業化の追い風を背景に、レアメタルを含む様々な鉱物資源の発見や産出で急激に成長を遂げている。
それでもそれの恩恵は都市部の、それも一部の裕福な人間しか得ていない。
しかし、環境がらもともと忍耐強いアレア人は、ささやかな楽しみを最大限に活用し騒ぐのが大好きだ。
さて、そんなアレア共和国の国境にほど近い道なき道を歩く風変わりな一行があった。
先頭を歩いているのは、極上のビロードのような艶やかな毛並みを持つ黒猫。
猫の中でも相当な美猫になるだろう、すらりとした肢体とキリッとした顔立ち。
「クロロル、待ってよお~!」
呼ばれた黒猫は後ろの遅れなど意に介さず、さっさと先に進む。
黒猫を追いかけるのは、14・5歳ほどの小太りの少女。そばかすが目立つ日焼けした肌、赤茶色のくせ毛を短く切り、綿のワンピースと麻のローブを身につけて短いブーツを履いている。
もう片方の人物は丈の長いローブを纏い、フードで深々と顔をかくした背の高い人物。
すらりとした体つきは華奢で、一見女性にも見える。
そのそばには白一色の猫が……肩にかけたカバンから顔をのぞかせた。
そして、その一行が街へ向かう坂にさしかかった時。
いきなり上から転がり落ちてきたのが。
何を隠そう、大きなカボチャだった。