王宮女官リリィ外伝〜あの子はだあれ?



(やはり……こんなものは必要ないか)


メイフュはポケットから取り出した、小さなキャンディを手のひらに載せて苦笑した。


あの老婆が余計なお節介をして、惚れ薬を仕込んだといういわくつきの菓子だ。


メイフュは確かに多少心が揺らいだのは否定できない。


中立国と平和主義を唱えるガラザ二世という偉大な父王を持ち、世界最大の版図を持つノプット国の第一王女を母にする生粋の王族。


第一王子としての重責そのものは構わない。自分なりの国造りの理想はある。


ただ……


息詰まる王宮生活が嫌で出奔しただけではない。


立太子する時婚姻する相手を、隣国フィアーナ王国の第三王女と定められてしまったからだ。


父王も政略的な結婚で王女を妻としたが、2人は仲睦まじい理想的な夫婦だ。


母のイマ后妃も先ごろ3人目を懐妊したと発表され、相変わらず福祉や公共事業について積極的に関わってるという。


しかし。


確かに両親はその血や身分がなければお互いに出会うことはなかったが、今の自分も同じではないかとメイフュは思う。


出奔しなければ、こうしてクママルには出逢えなかった。


世界とはなんたるかを解らなかった。


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