王宮女官リリィ外伝〜あの子はだあれ?
母親が招いてくれた家はカボチャ祭りが催される繁華街よりすこし離れた区域にあった。
ちゃんとしたレンガや石造りではなく、木の枠に泥や土で造り上げた簡素な小屋。
その区域はお世辞にも裕福とは言えない人々が暮らしており、日々の暮らしにも事欠くのだろう。
子ども達が道行く大人に施しを願ってる。
「すいません、こんなものしかありませんが」
人が10人も入ればいっぱいになりそうな小屋で、藁で編んだだけの敷物の上に母親は直に皿とコップを置いた。
木でできた皿やコップもひび割れ、色がくすんでいる。
それでも精一杯のもてなしを考えてくれたのだろう。
あったかいお茶からは香ばしい香りが漂っていたし、パンプキンパイは焼きたてで食欲をそそる。
母親はクロロルとシロロルにも小さな皿にパイを取り分けてくれた。
しかし、肝心なキュリオの姿がない。
「あの子は食べないんですか?」
クママルが気にして訊ねれば、母親は顔を曇らせる。
「……きっといたたまれないんだと思います。自分が嘘を着いてしまったと。昔は素直な子だったんですが……近所の子ども達に母子家庭とからかわれたことがきっかけでお父さんがいると嘘をつくようになり……今では“うそつきキュリオ”なんて呼ばれてるんです。
でも……あの子が嘘をつくのは悪意からじゃないんです。
寂しくてただ甘えたいだけ。もともとは母親のわたしを庇うために嘘をつくようになりましたから……どう言い聞かせればいいかわからないんです」