王宮女官リリィ外伝〜あの子はだあれ?
「キュリオ、早く行くわよ。みんな待ってるから」
「うん!」
翌朝、キュリオは家のなかや町を見渡した。
突然持ち上がった話はキュリオにとっても魅力的で、反対する理由なんかなにもなかった。
胸ときめかせながら新しい生活に思いを馳せる。
ドン・ミロッテはキュリオを学校にも通わせてくれる。そう言っていた。
きっと飢えることはないのだろう。
ドン・ミロッテは裕福な人だと子ども心にもわかった。
ただ。
キュリオにとって生まれ育ったのはこの町なのだ。
苦しくつらい思い出しかなくても、やはり故郷を離れるのは寂しいし感傷的にもなる。
狭い家を離れて狭く埃っぽい道を歩く時も、たくさんの思い出が蘇ってくる。
ああ、そうだ。
あの木箱はかくれんぼした時に使ったっけ。
キュリオが嘘をつくまで、まれにだがガキ大将のトムやサン達が遊んでくれた。
そんな楽しい思い出も一緒においてゆく……と。
キュリオは木箱に何かが書いてあるのを見つけた。
“1 9 44”
(この数字は……たしか)
キュリオは以前トムに教わったことを思い出した。
数字は対応する文字があるから、それを使って解読すると。