王宮女官リリィ外伝〜あの子はだあれ?
「それじゃあ簡単に出来る菓子を作るから、外からいいカボチャを選んできておくれ」
「は~い!」
単純なクママルはクロロルに乗られたまま出ていった。
老婆はしばらく茶の支度をしていたものの、クママルの足音が遠ざかり……
「ひゃあああぁぁ……」
派手に転んでから坂を転がり落ちる音を聴いてから、メイフュに向き直った。
「さて……今からまどろっこしいやり方はなしにしようかね。
ノイ・ズガルダ大王国の第一王子、メイフュ=ノイ=ル=ド=アクエル=ランドルグ=ピド王子」
老婆はさっきとは別人のように冷静沈着な様子で言い切った。
ピクリとメイフュの指が動き、自然と剣の柄に手が掛かる。
「待ちなさい。そんな物騒なものを出す必要はないよ。わたしはただ、あんたの恋を応援してやりたいと思うてるだけ。
見たところあんたはあの少女に少なからず好意を抱いてるが、鈍すぎて話にならんだろ?
それに、あんたは出奔してはいるが、国に帰ったら立太子せねばならない。
そうなれば、貴族や他国から縁談が山のように降って来る。
ノイ王国の王太子は立太と同時に婚姻もするのが習わしだからね。
身分も後ろ盾もないあの少女と想いを遂げるには障害が多すぎる。違うかね?」