カタブツ竜王の過保護な求婚
カインは気遣わしげに、レイナの真っ赤になった顔を覗き込み、わずかに困惑した様子で離れた。
途端に、レイナを寂しさが襲う。
仕方なく抱きとめてくれただけで、本当は不快だったのかもしれない。
唇を噛んでうつむいたレイナの目の前に、大きな手が差し出された。
「ここは、足元が悪いから」
カインに笑顔を向けられて、胸の鼓動がますます速くなる。
温かく優しい手に手を重ね、レイナは気持ちを預けるようにぎゅっと握った。
心地良い沈黙のまま手を繋いだ二人は、やがて小さな林を抜けた。
「まあ……」
思わず感嘆の声が洩れる。目の前に広がるのは、一面の畑。
風に揺れる青々とした穂。土色の中に、ぽつぽつと鮮やかな色を添える芽吹いたばかりの青菜。収穫を待つばかりの春野菜たち。
「城で私たちの食事に出される野菜のほとんどが、ここで収穫されたものだ」
「こんな……こんな素敵な場所がお城にあるなんて……」
レイナが呆然として呟く。
「ここは祖先たちが初めて開墾した土地なんだ。周囲を囲む高い壁は、侵略者たちを――人間だけでなく、害獣からも防ぐためにできたもので、今ではこの大きな宝を守る宝箱の役目を果たしている」
「わたし、聞いたことがあります。ユストリス王家の秘宝の話を。それは、とても大きな宝物らしいと……」
「別に秘密にしているわけじゃない。この国には金鉱山が多くあるから、いつの間にか話の方が大きくなってしまっただけで、古くからの臣下たちはよく笑い話の種にしている」
声を抑えてカインは笑った。