カタブツ竜王の過保護な求婚
ひやりとした空気が室内に漂う。
「その……急な話で申し訳ないが、明後日、アルクネト公国を訪問することになった」
ようやく口を開いたカインはわずかに言い淀み、それから一気に告げた。
「――アルクネト公国へ?」
「ああ」
「明後日……」
なんだか気が抜けてぽつりと繰り返したレイナは、そこで重要なことに気付いた。
アルクネト公国は同盟関係にあるがその近隣諸国はユストリスに反発を抱いており、公国内にも反乱分子がいるらしい。
「危険ではないのですか?」
小さな声での問いかけに、カインは少し考えるように黙り込んでから答えた。
「確かに……まったく安全だとは言い切れない。今回は少し物騒な話が入ってきている。公国内で良からぬことを企てている者たちがいるらしく、牽制も兼ねてのことなんだ」
「それは……まさか争いになったり――」
「いや、そこまで大げさなことにはならないだろう。ただ、アルクネト大公は先代の大公の後を継いで、まだ日が浅い。ついでに激励してくるつもりだ」
ふうっと大きく息を吐いて、カインは続けた。
「近年、我々が行った政策により、以前よりも多くの人間と物が行き来するようになった。おかげで市場では活発に取引が行われるようになったが……。それは非常に歓迎すべきことだし、そもそも私たちはそれを望んでいた。しかし、当然ながら問題も多く生じている。獣人の中にも人間を嫌う者は多くいるからな。私たちは一つ一つ、解決していくしかない」
「――きっと、カイン様なら大丈夫です。時間はかかったとしても、必ず問題は解決するはずです!」
カインへの言葉は、自分への励ましでもあった。