カタブツ竜王の過保護な求婚

 花耶菜には、古くから伝わる俗信がある。
 太陽神と大地神が一緒に夜を過ごした幸せが実を結び、花耶菜となって地上に現れたもので、幸せな花嫁が花耶菜をたくさん食べれば、子供を授かりやすいというものだ。

 レイナを訝しげに見たカインは、何を言おうとしたのか思い当たり、とっさに膝の上に置いた両手を固く握りしめた。
 そうでもしないと、レイナに手を伸ばしてしまいそうだったのだ。

 フィルに促されて時間も考えずにレイナの部屋へ訪れてしまったことは、すでに後悔していた。
フィルがお得意の正論を振りかざしてこの見え透いた罠を仕掛けたことにも、まんまとはまってしまった自分にも腹が立つ。

 髪を下ろした夜着姿のレイナは美しく、婚姻の夜にあえて見ないようにしていた、それからも考えないようにしていたものを突きつけられているのだ。
 レイナは、そんなカインの様子には気付かず、うつむいたまま勇気を振り絞って震える声で願いを口にしようとした。


「あ、あの……もし、よかったら……き、今日だけでも、夜を、一緒に――」

「無理だ」


 レイナの言葉を遮って、きっぱり拒絶したカインは勢いよく立ち上がると、寝室を隔てるドアへと向かった。
 そのまま立ち止まることなく、自室へ入っていく。
 すっかり色を失くしてしまったレイナは、ただ呆然とその背を見送った。 


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