カタブツ竜王の過保護な求婚
募る不安


「アンヌ、見て! 芽が出ているわ!」

「まあ、本当に。よろしゅうございましたね」


 小さな若葉がまばらに顔を出している畝を見て、レイナははしゃいだ。
 カインが王城を出発してから、もう十日が過ぎていた。

その間、無事にアルクネト大公領に到着したと知らせる手紙が一度届いただけ。
 それ以来、何の音沙汰もなかったが、初めてもらった手紙に、喜び浮かれたのは言うまでもない。ちなみに、レイナからはもう三通も送っている。

 煩わせるだけかもしれないと思いつつ、どうしても書かずにはいられないのだ。
 ――どうか、私を忘れないで。
 その想いが文面に表れないよう気をつけながら、旅の無事を祈って書き綴った。

 これで四通目の手紙を送れる。
 レイナは鼻歌まじりに小さな芽に水をやった。

 つば広の帽子を目深にかぶり、畑仕事の邪魔にならないような、袖口の詰まった萌黄色の簡素なドレスにエプロンを着けて畑の中に立つ姿は、まるで大地神の娘のようだ。
 騎士や作業夫たちは目を細めて見守っていると、軽快な足音が近づいて来た。


「お姉さま!」


 元気な声で呼びかけられ、振り向いたレイナは満面の笑みを浮かべた。


「ジェマ!」


 長い耳を揺らし小さな足で駆け寄って来るのは、ユストリス国王女――カインの妹のジェマだ。
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