カタブツ竜王の過保護な求婚


「妃殿下、申し訳ございませんが、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「――はい。それはかまいませんけど……?」


 次の日、王妃とジェマと昼食を共にして自室へと戻る途中の回廊で、レイナは見慣れぬ夫人に呼び止められた。
 夫人は王国の南西部に小さな領地を持つモレト男爵の妻サマエであると名乗った。
 そして、この度のカインの〝視察〟によって、ちょっとした領地内の揉め事を解決してもらったと言うのだ。

 頭の中に最近詰め込んだばかりの詳しい地図を思い描くと、アルクネト公国と夫人の言う領地が程近い場所にあることが知れた。きっと道中での出来事なのだろう。


「……本当に助かりましたのよ。それでぜひ妃殿下にもお礼を申し上げたくて」

「いえ、私は何もしておりませんから。ひとえに殿下のお力です」

「まあ、ご謙遜を。アルクネトにいらっしゃった殿下が次々と問題を解決なされているのも、妃殿下の許へ早くお戻りになりたいからでしょうと、皆が噂しておりますのよ。それなのに南部地域で暴動が起きるなんてねえ……」

「……残念なことですが、きっと殿下が無事解決してくださるでしょうから」


 男爵夫人は賛辞と同情を口にするのだが、ねっとりとした話し方がどうにも引っかかる。
 レイナはアデル夫人に仕込まれた他人行儀な――夫人が言うには、淑女として恥ずかしくない笑みを浮かべて応じた。


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