カタブツ竜王の過保護な求婚
「それで、殿下はいつお戻りになるのでしょうか?」
「私にはわかりかねますが……」
「何もおっしゃってはございませんか? 殿下にはもう一度きちんとお礼を申し上げたくて。それに陛下のご容態も心配ですわねえ? お体を起こされることもお出来になれないとか?」
「いいえ、王妃様がおっしゃるには、ずいぶん良くなられているそうです」
「それはようございました!」
「ええ、本当に」
大げさなほどに喜ぶ男爵夫人に応えてうなずくと、レイナはお茶を一口飲んだ。
二人が回廊から場所を移したのは、王城の一角にある小さなサロン。
緑のサロンと呼ばれるそこは、中央サロンとは違い、昼食時を過ぎたばかりのこの時間にはレイナたちの他には誰もいなかった。
壁いっぱいに広がる大きな窓からは、穏やかな風にさわさわと揺れる木々の梢が見える。
太陽が西へと傾けば、木々の影が室内の若草色の壁に映し取られ、淡く萌える森の中にいるような錯覚に陥るのだ。
今はまだ陽も高く、室内には開け放たれた窓からあたたかな風が舞い込むだけ。
レイナはカップを置くと、アデル夫人お墨付きの笑みをまた浮かべて、無難な話題を口にした。