カタブツ竜王の過保護な求婚
「失礼ながら、モレト男爵夫人は人間でいらっしゃいますよね?」
「ええ、もちろんですわ。ご存じのようにこの国には人間も多く住んでおりますから、特段珍しいことではありませんもの」
「そうでしたね。それで、モレト男爵夫人のご出身はどちらなのですか?」
「……わたくしの出身でございますか?」
「はい。お恥ずかしい話ですが、私はこちらに嫁いで来るまでずっと、フロメシアの宮殿から出ることがなかったものですから、今は色々と勉強中なのです。私には知らないことばかりで、特に皆様のご出身地域に関してのお話は興味深く……。お聞かせいただけないかと、いつもお願いしてしまいます」
突然の問いに訝しんでいた男爵夫人も、その言葉を聞いて理解を示すように微笑んだ。
「さようでございますか。わたくしの出身は、今の領地の隣――アルクネトにあるスジラムという街でございます。スジラムは、冬はとても穏やかですが、夏はとても暑く、雨もよく降ります。しかも夏には雷雨も頻繁にあり、街を流れる川が氾濫することもあるのですよ。それにスジラム湖周辺には、多くの湿地帯があります。ですが、それ以外の土地はやせていて、育てられる農作物は限られているのです。幸い、水はけが良いのでブドウ栽培には適していますから、多くのブドウ園があり、ワインの産地となっております。スジラム産のワインは世界一だと称されていますから、妃殿下もご存じでは?」
「ええ、それはもちろん存じております。私はあまりアルコールが強くないのですが、スジラム産のワインは大好きですもの」
夫人の説明を真剣に聞いていたレイナは、ワインの話に顔を輝かせた。